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2006年1月 4日 (水)

『秘密のかけら』

20060105002534☆☆☆ 成熟した作り手が生み出す迷宮的世界。
 エゴヤンの作品は観客を誘う迷宮です。この作品もそんな映画です。しかし彼の作品から私はしばらく遠ざかっていました。遠ざかった理由として、作品の語り口に成熟が感じられず、構成が二番煎じに感じてしまったからです。そんな彼が初めて、いわゆるスター俳優を使った作品と言うことで期待していたのですが、いろいろな意味で驚きにあふれた作品でした。
 まず格段に物語を上手に紡ぎ出せるようになりました。モチーフは毎度おなじみ「過去にとらわれた人々」の話なのですが、『スウィート・ヒアアフター』の頃とは段違い。もともと人間の心の奥の闇を浮かび上がらせることはうまい人。不思議の国のアリスになぞらえた世界観、そして一般映画では珍しい赤裸々な性描写も唐突な印象がなく、ストーリーテラーとしての腕があがれば、作品の完成度はぐっと上がります。それからスター俳優の起用に関しては、この作品は吉と出ています。ケビン・ベーコンとコリン・ファースというキャスティング自体が観客をミスディレクションしていると言えます。この2人の演技は本当に見事で表に出てくるところと出てこないところを、一つの人物像として表現しているところはさすがです。逆に足を引っ張っていると感じたのは、ジャーナリスト役のアリソン・ローマンで、自己を取材対象に投影するという部分が物語の肝なだけに、彼女が演じた人物がひどく薄っぺらく感じられたのが残念でした。さらに話をわかりやすく説明しようとしているのか、モノローグや説明調の台詞が多かったのは意外でした。これも彼の変化なのでしょうか。この点は『エキゾチカ』の映像迷宮のようなおもしろさと比較すると、つまらなく感じました。
 万人に勧められる作品ではありませんが、ベーコンとファースの演技を見逃すのはあまりにももったいないです。そしてエゴヤンという映画作家がこういう作品を着実なペースで作っていることに、映画ファンは喜びをかみしめる、そんな作品です。
(日比谷シャンテ・シネ1にて)

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