『この子の七つのお祝いに』
☆☆ 岸田今日子、おそるべし。
かつて謎解きの場面だけTVでみていました。きちんとみたかったのですが、その後なかなかビデオにもならず、TVでもあまりオンエアもされず。昨日の『サード』のあとでオンエアされてました。結局録画して本日鑑賞。ああ、忙しいのにぃ(爆)。で、名匠増村保造の遺作でもあるミステリーは、こりゃ強烈に印象に残るのも無理がない怪作。
キャスティングで真犯人の目星はつきますし、謎解き自体は大がかりではありません。ただそれ以上に戦後の混乱を背景に運命の歯車が狂っていく登場人物たちのドラマとして興味深いあらすじです。ところがそれが浮かび上がってこないのです。早い話、描写が雑で、悲劇としての痛切さが伝わってこない。話のスケールが妙にちまちましていて、二時間ドラマレベルの完成度です。そこへますます混乱に拍車をかけるのが、演技陣のベクトルがばらばらな熱演ぶり。杉浦直樹なんて何がやりたいのかわかっていない。岩下志麻も肩の力はいりすぎ(写真とはいえ、セーラー服はやばかった。あんな高校生いません)。さすがなのは芦田伸介。最後にびしっと締めています。そしてそして。絶対に忘れられないの岸田今日子! ああああああああああ、怖すぎる! 彼女が登場する場面はもっと少なくてよかったはずです。そうすれば作品のアクセントになった。しかし結果的に彼女がすべての場面をさらってしまい、彼女の狂気が作品のトーンを良くも悪くも支配し、すべてを破壊しつくしてしまっています。
悲劇の人間ドラマとして成立したはずの作品は、とんでもない魔を秘めて、ただ怪作となって残りました。観客が覚えているのは彼女のことだけ。真犯人は誰かなんてどうでもよくなるのです。怖いモノみたさの方、後戻りはできませんよ。私も岸田今日子だけを記憶し、彼女の狂気にこれから恐れおののくのです。そう、この映画での岩下志麻のように。
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