『カランジル』
☆☆☆ あの暴動を事実として付け加えた意図は?
『蜘蛛女のキス』で知られるヘクトール・バベンコの未公開作。とある医師の手記を中心に、実際にブラジルであった刑務所での暴動を映画化しています。
映画の大部分はエイズ検査を行うために派遣された医師と囚人との関わりで、それこそ安部譲二の小説のような刑務所実録記がつづられます。ここはとてもおもしろいのです。しかし唐突に暴動が発生。ここからは軍警の残虐非道な行いが出てくるのですが、はたして作り手は囚人の立場なのか(囚人も人間なのだ)、それとも軍警の立場なのか(人間とはいえ囚人なんだから恐ろしいことをしたことは否定できない)、はたまた第三者の立場(所詮人ごとで私にはどうにもならぬ)なのか、がよくわからないまま、映画が進みます。事実映画の語り手はころころと代わり、あげくに肝心の医師は暴動の時には不在なのです。そしてあの暴動の描写は非常に唐突な印象をあたえます。暴動をあえて付け加えた訳は何だったのでしょうか。
力作であるものの、困惑しているのが正直なところ。社会派な作品が多いバベンコが露悪趣味と言われてしまう理由が少し納得できるような、そんな作品でした。
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