『ディープ・ブルー』(2003)
☆☆ 記録映像の価値が、そのままドキュメンタリーの評価にはならない。
昨年日本でも大ヒットしたBBC製作ドキュメンタリーの総集編。まず記録映像としての価値の素晴らしさには驚かされるばかりです。中でも深海の発光生物の美しさは『アビス』の世界です。大スクリーンでの上映にも耐えうるクオリティで、さまざまな生態を克明に記録する労力に敬意を表したいと思います。しかしそれが作品としての価値はどうなるかとなると別問題なのです。
ドキュメンタリーは映像で構成される作品であり羅列ではありません。近年話題になった『華氏911』もそうですが、映像作品の場合は特に事実を再構成することで「主張」や「見解」が生じます。単純にドキュメンタリーは事実だといえない側面はその点にあります。そうやって考えてみると、この作品は映像ひとつひとつに素晴らしい価値がありますが、『ディープ・ブルー』という長編作品としてみた場合、この作品が何を観客に伝えようとしているのかが、今ひとつはっきりしません。総集編ですのでかなり削ったと思われますが、それではなおさら、どんな長編にするのかを考えてほしいと思います。そうでなければ我々はとても退屈な時間を過ごすことになります。
この作品はまるで学生のことをまったく考えず、ただテキストをだらだらと読み上げる大学教授のようです。興味深い題材で、なおかつ映像は素晴らしいのです。みる価値はあると思いますが、退屈する可能性も大きい作品です。
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