2022年3月19日 (土)

『ロレンツォのオイル』のその後

Lorenzo

 ジョージ・ミラーが監督した『ロレンツォのオイル』(1992)。難病である副腎白質ジストロフィー(ALD)を患う息子を助けるため、両親は医学や科学知識がまったくなかったにもかかわらず、病気のメカニズムを自ら調べて、そのうちに息子の症状を緩和させ、治療に役立つオイルを自ら開発した夫妻の物語です。
 さて。実話物で観客が興味をもってしまうのが、彼らのその後。本作もあの終わり方だとどうなったかが気になります。実はこの映画で描かれた物語のその後はかなり興味深いです。というのもこのロレンツォのオイル。公開されてからその効果に疑問がつき始めて、やがてかなりひどいバッシングへとつながっていくからです。両親の我が子への愛情はオイル開発を短期間で成功させたという奇跡を起こすわけですが、学術的な側面としては不足してしまった要素が大きかったわけです。しかしどうやらあの物語では悪役的に描かれたピーター・ユスチノフ演じた医学者が、その後の展開で重要な役割を果たしたようです。

興味のある方はこちらに詳細が書かれていました。
「ロレンツォのオイル」その後 / 李啓充(医師/作家)

なおモデルとなったロレンツォ・オドネさんは2008年に誤えん性肺炎のため30歳で亡くなっています。またお母様のミカエラさんは2000年に、お父様のアウグストさんは2013年に亡くなられています。

 あまり好奇心だけで他人のプライバシーに関わることに首を突っ込むのは下世話だと思いますが、この出来事は医療の難しさをあらためて感じさせました。ただ映画で描かれた親子の物語は素晴らしい感動を与えてくれる物でしたし、オドネさんたちの実際も愛情あふれるものであったことは疑う余地はないと思います。名作だと思いますので、ぜひ多くの方にご覧頂きたいと思います。

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2021年11月12日 (金)

『下着博覧会』

☆☆1/2 二葉エマの怪演。近藤監督の色。
Haru

 私はディズニーからアダルトまで素晴らしい作品には垣根はないと考えていて、その表現でないと描けないドラマがあると思います。ピンク映画やにっかつロマンポルノ、さらにはAVと呼ばれる作品にも素晴らしい作品はたくさんあります。OP PICTURES+フェスでも城定秀夫監督の『恋の豚』や、髙原秀和監督の『人妻の教え子 ふしだらな裏切り』あたりはすごく好きでした。
 さて本作は2編の中編で構成されたオムニバス。1本目「愛は無限大」はコメディタッチの物語なのですが、正直あまり笑えませんでした。いくらなんでも詰め込みすぎで、行き当たりばったり感が強い。胸のトラウマや店長のガジェットもいかされてません。もし艶笑コメディでいくのであれば店長を主役にすべきだったし、ナンセンスコメディにするのであれば、マネキンが主役でもオモシロかったかもしれません。ブラジャーに襲われるシーンは『死霊のはらわた』のブルース・キャンベルっぽくて、そこは楽しかったです。
 2本目「春っぽい感じで」はおもしろかったですね。これはピンクならではのドラマでした。函波窓演じる美容師は自分のことを「カリスマ」と呼ばせちゃってるような男で、彼女もいるけど明らかに倦怠期。そこに二葉エマ演じる新人美容師と刺激的な関係を持ってしまいます。この二葉エマが大怪演で、函波窓がなぜのめり込んでしまったのかに説得力をもたせることに成功しています。2人のやりとりは爆笑物で、まさか題名がこういう使われ方になるとは!という驚きのシーンと、ローターを使われた函波窓のリアクションは本当に秀逸でした。近藤啓介監督については私の不勉強で長編はみていないのですが、テレビ東京でオンエアされた「直ちゃんは小学三年生」というドラマをみていました。これでもシチュエーションの作り方と、斜め上を行くセリフの出し方がおもしろくて、そのあたりのセンスが近藤監督の色なんだなと思いました。
 ただその分、割を食ってしまった印象になったのが新村あかり演じる美容師の彼女の存在。ここは新人美容師と対にならなきゃいけなかった。新人美容師はただ単に刺激がほしいだけで美容師のことは自分も気持ちよくなって楽しむための遊び道具程度にしか考えていない。一方、美容師の彼女は多分不器用でルックスや家事とかにこれといった長所とかはない女性かもしれないけれど、実は美容師のことを心から愛している。しかし美容師側はそのことのありがたみを忘れかけている。それを象徴するのが彼女の口からアレが出てくるシーンで、あれは彼女が美容師のために健気に精一杯貞操を守ろうとした証でもあるのですが、それを美容師は気づいてあげられないどころか、気持ち悪いと感じてしまうすれ違い。ここのシーンが軽く感じました。おそらく尺の関係やR-15版にするための編集によるものもあるかもしれませんが、新人美容師とのやりとりをワンシークエンス削って彼女側の芝居どころをつくったら、すれ違いのシーンに加えて、侍のシーンや最後のパンティのシークエンスもより効果的になってきたと思います。
 函波窓という俳優さんはユニークな魅力がありますね。ルックスも個性的ですし、こういうダメ男役をユーモアをスパイスにして嫌みなく演じられる。また二葉エマは要注目。今度はコメディエンヌもできそうですし、感情を抑えるような役柄もみてみたいです。
 昔から映画ではホラー(スリラー)とエロは新しい才能のショーケースとなってきました。万人に勧められるタイプではないかもしれませんが、近藤監督や若い俳優さんのような今後の活動に注目していきたい映画人の才能を楽しめる作品として、一見の価値があると思います。
(テアトル新宿にて)

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2021年11月 8日 (月)

The Vapes(渋谷サイクロン)

 3月のライブがとてもよかったので、The Vapesさんのライブに足を運んできました。なかなかタイミングが合わなかったのですが、ツアーのラストだということですし、行かねばと思った次第です。
 やっぱりカッコよかったです! おじさんの魂、揺さぶられました。他のバンドの方には申し訳ないが、音の存在感、疾走感が違う。ライブで2回しか聴いていませんが、3月からさらに突き抜けた感じがありました。コロナ禍での音楽活動、ようやく緩和されてきたライブハウス営業、ギタリストのメンバーチェンジなど、いろいろと大変な中で、それを軽やかに飛び越えてるというか、何か「私たちは意地でも前に進んでみせる!」って生き様を「あんたは前に進んでるのかい?」って音でぶつけられたというか。うん、私の魂に気合いを入れられました。つまり間違いなく今日のライブも最高のロックな空間だったと言えますね。
 Nanaさん、お誕生日おめでとうございます。23歳、これからもロックしちゃってください。次のライブも楽しみにしています。

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2021年3月29日 (月)

The Vapes(渋谷サイクロン)

今日はどうしても足を運んでおきたかった、あるバンドのライブを聴くために渋谷サイクロンというライブハウスに行ってきました。

The Vapesというガレージロックバンドです。
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 このバンドを知るキッカケになったのは、有希乃さんという存在を通してでした。そして私にはこのバンドのボーカルをされているNanaさんに、今でも心から感謝をしていることが2つありました。ひとつは私が聴いた有希乃さんのライブの中でも、ダントツに素晴らしかったライブを企画&当日共演されたこと。そして有希乃さんが活動休止されて3ヶ月ほど経ったある日、有希乃さんの「とゅもろ」をカバーされたことでした。この2つがどれほど私の心の中で大切な思い出となっているかはうまく伝わらないかもしれないのですが、いつか必ずライブに足を運ばなくてはと思っていました。実際何度か試みたのですが、時間や場所がうまく合わず、延び延びになっていました。そしてこのコロナ禍です。ますます機会を捕まえることが難しくなっていました。ただあまり熱心なファンではなかったものの、時々聴いたThe Vapesさんの曲は自分の好みに合う物もあって、熱心なファンだとは言えませんでしたが、心の中でずっと応援していました。

 そんなバンドからギターのメンバーが脱退するというニュースを知りました。ビックリしました。なぜならThe Vapesの魅力のひとつは間違いなくギターだと感じていたからです。「I wanna be」とかのリフは絶妙だったし(きっと私のようなギターロックが大好物な人が聴けばわかってもらえると思います)、このバンドはベースもドラムもボーカルもそれぞれに存在感があって、バンドの成り立ち方が足し算ではなくオールオアナッシング的な空気がありましたから、誰かが抜けると大きな痛手であることは間違いありません。自分が知っているThe Vapesというバンドの音を心に刻みつけるラストチャンスではないのか? そんな思いから今回は意地でも!と渋谷サイクロンに足を運びました。

 ライブハウスに来たのは有希乃さんのライブ以来。ライブ自体もU2以来。PERHAPS MAYBE'sさんあたりから聴いて、タカノリョウさんがあって、いよいよThe Vapesさんの登場。いや、まじカッコイイです。もっとはやくライブでみればよかったと激しく後悔。バンドサウンドはやっぱええわ!と燃えたぎるような。そのぐらい本当にカッコよかった。中でも3曲目の「スーサイドライブ」はオーディエンスの我々にもNanaさんの気持ちが伝わってグッときました。ライブだから伝わる歌ですね。生きててよかった。ここに来てよかった。あっという間の30分。魂こもってました。

 私は所詮オーディエンスの1人でしかありません。音楽で食べていくことがどんなにツライかも少しは知っています。バンドを続けていくしんどさもあることでしょう。だからThe Vapesさんにガンバレとか、負けるななんて知ったような言葉は口が裂けても言えません。

ただただThe Vapesさんに伝えたいこと。

 私は今日の渋谷サイクロンのライブにオーディエンスとして参加できて、本当によかった。サイコーにカッコよかった。今日の4人の演奏、誰の物でもないThe Vapesのロックだったし、こういうバンドが存在していることがとても誇らしいです。

 本当にサイコーの音をありがとうございました。チャンスがあればまた足を運びます。

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2020年8月 6日 (木)

あれから1年! なのです。

今日で私があなたの音楽に出会ってから1年が経ちました。
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1年前の今日、私は台風直撃の九州を
運休&遅延しまくりのJRを利用して右往左往していました。
夜、天文館で、あなたはストリートライブをしていました。
こうやって思い返してみても
縁というのは本当に不思議ですよね。

夏本番を迎えた今日この頃ですが、
日々の生活にはまだまだ不安が消えません。
多分こうやって生活は続いてくんですよね。

実は7月のはじめ
わずかな間でしたが
わたしのまわりからあなたの音楽を
スパっと消し去ってしまった時期がありました。

やっぱり聴いていると
あなたは大丈夫かなあ、という気持ちと
あなたの音楽がある時間が、今あったら・・・、という気持ちを
感じる場面があって
ちょっとだけ哀しい気持ちも起きてしまったからです。

でもきっと
日々を生きるためのそんなもがきは
停滞とか退行ではなくて
あとから振り返ると
何とか前に進んでいるんだなあ、と思います。

間もなくあなたのアルバムが発売1周年を迎えますね。
あなたのチャンネル登録者、もうすぐ800人を超えそうです。
そして私も、またあなたの音楽を聴いています。

この1年間はとても楽しい1年でした!
あなたがつくった音楽とあなたがつくった時間に
心から感謝しています。

来年もあなたの音楽に感謝できる日が来ますように。
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2020年8月 5日 (水)

初心者向け城定秀夫監督作品鑑賞ガイド!

 ご存じの方も多いと思いますが、城定秀夫監督はここまでアダルト系Vシネマやピンク映画を主たる活動の場としてきています。ここが大きな壁になっている方、いらっしゃるでしょう。あのジャケットや内容紹介じゃ、みる気は起きませんよね(汗)。こちらも内容に性的な描写があると他人にはとても勧めにくい。しかしひとつ言えるのは城定監督の作品の性的描写には、それでしか描けないものがあるのです。城定作品には人間ドラマがあると思います。
 『アルプススタンドのはしの方』が一般の映画ファン(ピンク映画ファンと分けるための表現です)の注目を浴び、さまざまな媒体でもとりあげられています。あの映画秘宝でも、ここまでに城定作品の特集が3回(2017年8月号、2018年11月号、2020年9月号)ありましたし、『アルプススタンドのはしの方』で城定秀夫監督を知った方も多いと思います。ぜひそんな方にも監督の他の作品をみていただきたいと思いまして、この記事をまとめました。参考になればありがたいです。 ※2020/08/08に記事を一部修正追記しました。

<城定秀夫監督作品の魅力>
 自分にとっての「初」城定秀夫は『新任女教師 二人だけの教育実習』で、これはDVDリリース直後にみています。完全にアダルトな目的でした(汗)。でも吉岡睦雄と話の構成が強く印象に残っていて、才能の萌芽は感じられました。
 自分が意識して城定秀夫という監督の作品を追いかけ始めたのは、おそらく2014年あたりだと思います。松江哲明監督が『デコトラ★ギャル奈美』を褒めていて、ためしにみてみたら大当たりだったのです。プログラムピクチャとしても面白いし、登場人物の造形がグッとくる。名前を覚えましたが、それでもまだ受動的な感じでした。次のキッカケはWOWOWでのオンエアでした。試しにみてみたらこれが面白いの何の! しかもことごとく全てが。何だろう、この監督は?となりました。そこからはBSやCSでオンエアされた時はできるだけチェックしてみるようにしています。

 では城定作品の魅力とは何でしょう?

 ホラーとエロで魅せる作品が作れる監督は注目の価値ありというのは昔からよく言われることですし、Vシネマのような低予算作品が才能のショーケースとなっていましたから、城定監督の才能開花はその好例だったと思います。ただ城定監督は一般映画ではなく、ピンク映画やVシネを主たる活動の場としていくのですが、結果的にその作家性はユニークな進化を遂げたのではないかと考えます。ピンク映画やVシネは、映画として面白ければ満足、ムラムラできたらなお満足な世界ですが、そのハードルをいつもたやすくクリアしてしまうのです。なおかつユニークでドキッとさせるやりとりが物語や人物に普遍性と時代性の共存をみることができるのです。

○表現が簡潔
 上映時間が短い! なぜこれが褒め言葉か? 余計な物がないから短くて済むのです。でも映像表現で物語を語るので、余白がちゃんとあって、余韻もあるのです。撮影や編集などのスタイルは映画表現の王道を行っていると思います。

○展開が独創的
 ご自身で脚本を書かれているものが多いですが、導入やシチュエーションは一般的でも、展開にヒネリが効いているものが多いです。観客は驚きながらもカタルシスを感じられます。

○女性を魅力的に描けている
 私があげる一番の魅力はこれです。城定作品の女性は本当に美しく哀しいのです。そして監督は限りなく優しい視点で見つめています。性を通してでしか描けない物語があることは、古今東西の芸術作品でも証明されていますし、性を通して描いた物語だからこそ、ジェンダーを超える視点が得られているのだと思います。
 余談ですが、城定監督の作品では女優さんが魅力的という柳下毅一郎さんの指摘は本当にそうです。古川いおりさん、西野翔さん、七海ななさんなど、そうそうたるセクシー女優さんが出ていますが、彼女たちに興味をもって他の作品をみても、あまり魅力的でないことが多く、全然違ってみえるのです。

 ですから『アルプススタンドのはしの方』にある魅力の原点は過去の作品にあり、あの作品にセックスシーンが増えただけと思っていただければと思います(ちょっと過激なやつかもしれないけれど(汗))。『アルプススタンドのはしの方』を気に入った方はぜひ! 

<過去の城定秀夫監督作品のどれからみるか?>
 以下が城定監督作品で私が鑑賞しているリストです。すげぇ、40本もみていた! いつの間にか自分の映画鑑賞歴で一番数多くの監督作品を鑑賞している方になっていました。そもそもキャリアの中でここまで監督作を残せる方は、かなり珍しい部類に入ると思います。ちなみに私の鑑賞作品数が多かった監督ランキングで、城定監督に次いだのがクリント・イーストウッド(38本)。ちなみこの38本はイーストウッドの監督作全て。城定監督作品数はまだまだ未見作が山ほどですから。文字通り、城定監督がイーストウッド超え?(笑)

<自分が観賞した城定監督作品リスト ※城定夫名義も含む> 年代順・太字斜体は特にオススメ。
水元ゆうな 萌ラ―メン必見伝
新任女教師 二人だけの教育実習
デコトラ★ギャル奈美
懺悔 松岡真知子の秘密
デコトラ★ギャル瀬菜
悦子のエロいい話 ~あるいは愛でいっぱいの海~
ヒン子のエロいい話
ラブ&ドール
ラブ&ソウル
女の犯罪史
シリーズ エロいい話 渚のマーメイド
シリーズ エロいい話 エスパー★マミコ
ツクシのエロいい話
ケイコ先生の優雅な生活
デコトラ★ギャル奈美 ~感動!夜露死苦編~
デコトラ★ギャル麻里
妹の夏
闖入家庭教師~小笠原一家の事件手帖
人妻観察委員会
美人妻白書 隣の芝は
桃木屋旅館騒動記
悲しき玩具 伸子先生の気まぐれ
嘆きの天使 ナースの泪
僕だけの先生 ~らせんのゆがみ~
妹がぼくを支配する。
舐める女
箱女 ~見られる人妻~
妻の秘蜜 ~夕暮れてなお~
悦楽交差点
方舟に濡れる女たち
ラブアンドロイド 執事のアダムとぼっちな私
ミク、僕だけの妹
わたしはわたし OL葉子の深夜残業
覗かれる人妻 シュレ―ディンガ―の女
恋の豚 むっちり濡らして
私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください
私の奴隷になりなさい第3章 おまえ次第
花咲く部屋、昼下がりの蕾
犯す女 愚者の群れ
アルプススタンドのはしの方

ではこの中から初心者にもオススメできる城定秀夫監督作品をプッシュします。全部Amazonの配信で鑑賞できるものから選びました!(並べ方は上から初心者向きの度合いで並べてみました) ※初出時にAmazonプライムと表現していました。スミマセン! 修正しました。
 
『わたしはわたし OL葉子の深夜残業』
城定監督版『君の名は。』? 二重人格の女性が主人公なのですが、多分あなたが考える物語とはぜーんぜん違う方向に進みます。

『悲しき玩具 伸子先生の気まぐれ』
エッチな厚木先生とアルプススタンドの極北で過ごしたような作品です(笑)。でもすごく真っ当な青春映画でもあり、素晴らしい女性映画です。ここに石川啄木が加わるなんて想像つきますか?

『懺悔 松岡真知子の秘密』
城定版『何がジェーンに起こったか?』。でも間違いなく城定監督のフィルモグラフィでは個人的に大きな分岐点になった1本だと思います。姉妹の描き方が素晴らしい。

『女の犯罪史』
何と実録物!と思っていたら、実はフェイクだそうです。このブログをアップするまで気づいてませんでした。監督のインタビューを読み直したらウソですと・・・(汗)。でもいいです。日常的に感じる女性の哀しみと生きにくさを滑稽さでさらっとくるんだタッチで描きますが、とても切ない作品です。

『妻の秘蜜 ~夕暮れてなお~』
アダルト作品にありがちなシチュエーションが城定監督の手にかかると極上の人間ドラマになりました。

『花咲く部屋、昼下がりの蕾』
城定秀夫監督の新たなる地平を感じる、現時点で私の城定作品における一番のお気に入りです。城定作品はいつも、真の意味でフェミニンな視点があり、優しさがあり、官能的ですが、本作は城定作品ではあまり目立たなかった美的意識(でも実は視覚的な要素は今までの作品でも重要だったが)が登場人物の情感と呼応している点が本当に素晴らしかったです。官能的ではあるのだけれど基本は夫婦の絆の物語。純愛故の倒錯。純愛故の悲劇。文楽や浄瑠璃に通じる感覚ですが、気取りは無いけれど美しい故に切なかったです。良い意味で今までの城定作品の枠を飛び越えて、作品に風格をもたらす絶対的な美を備えた官能と優しさと愛に充ちている一級の芸術作品です。

また以下の3本はAmazonにはないけれど、ぜひおすすめしたいものです。

『悦子のエロいい話 ~あるいは愛でいっぱいの海~』
誰とでもセックスしてしまう女の子、という設定を聞いたらゲッ!と思ってしまうかも知れませんが、題名の通り、これは愛についての物語でした。

『美人妻白書 隣の芝は』
いわゆる不倫物なのですが、シチュエーションコメディとしてもすごくよくできていて、上戸彩の『昼顔』なんかより五億倍オモシロいです。

『ミク、僕だけの妹』
『エクスマキナ』と同じぐらい人工知能を描いた近年のSF映画では重要な作品です。もう誰も想像できない展開でした。そしてどこか切ない物語です。

ちなみに私もまだみていない作品が山ほどある人なので、オススメがあったら教えてください!

<城定秀夫監督作品をみる方法>
 私はディズニーからアダルトまで映画として面白ければ何でもみてしまう人ですが、アダルトという表現に抵抗感があるという人は少なからずいらっしゃるでしょう。事実、監督の『性の劇薬』については、同性愛などにそれほど偏見がない私ですら未だに腰が引けてしまってみていません。だから私の場合、あまりよいお客さんではないかもしれません。映画館でみたのはわずか2本(『私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください』『アルプススタンドのはしの方』)。あとはほぼBSやCSでの放送でみていました。これは逆説的に城定作品をみるためのハードルの高さを説明していると思います。

○ピンク映画館での上映
都内に数館あります。でも私も頻繁に足を運ぶ気にはなかなかなりません。やっぱりコワいですもん(汗)。私が映画館でみた2本は一般作品でしたから。それと私はホームシアターで家では鑑賞しているので、普段も映画館では「これは映画館で!」という感覚になる作品を優先して鑑賞しているというのもあります。

○一般映画館での上映
一般作品はもちろんですが、ときどき監督の特集上映がある時があります。最近だと2019年にポレポレ東中野でありました。

○DVDレンタル
これがかつての王道でした。しかしショップが激減してますし、近隣に作品がない!というケースもあると思います。私の場合、SD映像のクオリティが耐えられないので、DVDのレンタルは、よほど特別な事情がない限り選択しません。

○配信
これがこれからの主流だと思います。アマプラ! ネトフリ! でも残念! 大手配信会社はピンク映画に優しくありません(汗)。監督のVシネ作品はかなり増えてきましたが、ピンク映画が配信されているケースは少ないです。また権利を持っている会社が独自の配信サービスをしていることもありますが、値段的にはかなり割高な印象です。

○BSやCSでの放送
私がメインにしているのはこれです。以前はWOWOWでも年に何本かかかっていましたが、最近はほとんどなくて、現在一番頻度が高いのは東映チャンネル、次が日本映画専門チャンネルかと思います。ただ狙い通りにコンスタントにやってくれるわけではなく、いろんなチャンネルと契約して、かなりマメにチェックしないとダメかも知れません。

<城定作品を知る資料とキーパーソン>
 残念ながら城定監督に関する書籍は公式には少ないと思います。城定作品を手がけているプロダクションレオーネから城定秀夫脚本集が2冊出ています。ただ短期間の限定販売のため、現在は入手できません。(私も入手できませんでした(汗))。

vol.1
「悦楽交差点」「舐める女」「方舟の女たち」「恋の豚」
vol.2
「犯す女~愚者の群れ~」「花咲く部屋、昼下がりの蕾」「ミク、僕だけの妹」「わたしはわたし~OL葉子の深夜残業~」

 それから何と言っても前述の映画秘宝における特集記事が掲載された3冊です。とても充実していて、久保Pが作成した城定監督のフィルモグラフィも掲載されています。
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 城定監督作品の魅力を支える4人の方々を紹介します。SNSなどでチェックされるとまた城定作品を違った視点で楽しめるかなと思います。

久保和明
城定監督作品のプロデューサー。間違いなく城定監督を陰に日向に支えてらっしゃる方です。「映画秘宝」2017年8月号では城定監督インタビューに久保プロデューサーもご一緒されていて、城定監督創作の秘密を知る上でも貴重なお話をたくさんされています。

田宮健彦
城定監督作品を何作も担当されているカメラマン。間違いなく城定監督を技術的に支えている方だと思います。動と静のコントラスト、艶めかしさを引き立たせるライティングなど、城定ワールドには欠かせないカメラマンです。

吉岡睦雄
2010年代中頃までの城定監督作品には必ず顔を出していた俳優さんです。さまざまな役柄を演じることができますが、男のダメな部分をサラッと出せるところがとても好きです。

麻木貴仁
現在の城定監督作品を支える俳優さんです。ちょっと映画評論家の町山智浩さんっぽく見える時があるルックスです。『悦楽交差点』での麻木さんは「ホンモノのストーカー?」と思っちゃうぐらいのリアリティでした。

 以上、長文拙文におつきあいいただき、ありがとうございました。間違いなく名前で作品の質が期待できる監督さんです。私もファンとして応援していきたいと思います。

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2020年8月 4日 (火)

『エレファント・マン』4K修復版

☆☆☆1/2 漆黒の闇はさらに深く、人々の魂を見つめている。
Ele40
 かつてデビッド・リンチの時代がありました。『エレファント・マン』が日本でも大ヒット、『ブルーベルベット』はシネマライズ渋谷を連日満員にして、『ワイルド・アット・ハート』でカンヌを制し、『ツイン・ピークス』は世界中で大人気になりました。日本でも彼の作品を好きだという方は多かったと思います。その彼の長編監督作品で私が唯一劇場でみていなかった『エレファント・マン』が4K修復されたバージョンで再映となったので、みてきました。

<デビッド・リンチ 長編監督作>
イレイザーヘッド(1976)
エレファント・マン(1980)
デューン/砂の惑星(1984)
ブルーベルベット(1986)
ワイルド・アット・ハート(1990)
ツイン・ピークス-ローラ・パーマー最期の7日間(1992)
ロスト・ハイウェイ(1997)
ストレイト・ストーリー (1999)
マルホランド・ドライブ(2001)
インランド・エンパイア(2006)

 私が彼の作品を大好きになったのは『イレイザーヘッド』でした。最初はビデオでみましたが悪夢のようなイメージの洪水は衝撃的でしたね。他の作品もビジュアルセンスがスゴく、音楽の使い方もセンスがよくて、何度も何度もホームシアターで再生していました。でも実は『エレファント・マン』だけは、ここまで3回しかみていませんでした。1回目は小学生の頃の地上波初放送で。2回目はVHS。3回目はブルーレイ。特に2回目は再生後に何かすごく気持ちが落ちこんだことを覚えています。つまりそう何度も再生する気分にはならない映画なのかもしれませんし、私にはコワい映画という印象が強かったです。

 あらためて気がついたことがいくつかありました。そしてこの映画がアート作品としてなぜ素晴らしいのかが、少しわかった気がしました。

 きっかけは映画自体が入れ子構造になっているのでは?と思ったことでした。
 この映画はモノクロ撮影です。舞台となるのは19世紀のイギリス。漆黒の闇と響き渡るインダストリアルなノイズ。『イレイザーヘッド』にもつながるような表現ですが、あの映画と大きく違うのは、ここにどこかクラシカルな品格が与えられたことです。そこに大きく貢献しているのはやはり撮影でしょう。撮影を担当したのはフレディ・フランシスという方で、彼はあの恐怖映画の最高峰『回転』も担当し、自身もハマーフィルムで怪奇映画の監督をしていました。そんなこともあってか、この映画は怪奇映画的なテイストで語られていきます。初めてみた時にこのギャップが違和感となってずっとつきまとっていました。
 プロローグとして提示されるイメージ映像に続き、開巻早々、医師のトリーブスが見世物小屋に足を運んでいきます。やがて公開中止を余儀なくされた興行師のバイツにかけあって、彼はエレファント・マンこと、ジョン・メリックを見ることができます。実はこの時、観客側にはまだメリックの姿を見せません。彼の姿をハッキリと観客に見せるのは、バイツの暴力によって呼吸困難になったメリックを、トリーブスが隔離病棟に収容された後、看護師の視点で、になります。なぜそこで?だったのかがずっと疑問でした。
 映画はアートでもあり興行でもあります。そもそもが見世物でした。実は観客席にいる人々も初公開時にはエレファント・マンの姿に好奇心を抱いた人は少なからずいたと思います。そしてそれはトリーブスたち登場人物と大差がないのです。実際本作の登場人物たちは見事なまでに普通です。トリーブスは当初は明らかに医学研究のためにしか行動していませんし、病院にいる人たちもメリックを助けようとするばかりではないのです。ましてや夜警やその取り巻きはいわずもがなでしょう。怪奇映画としてリンチが「見世物」として観客に示していたのは、私たち人間の側だったのです。そしてそれを映画館にみにきている観客も同じなのですよ、と。実際メリックを逃がそうとするフリークスの仲間たち(R2-D2でも知られるケニー・ベイカー!)との別れのシークエンスは実に美しく描かれていますし、映像表現としてメリックをグロテスクには描いていないのです。登場人物の中で唯一高貴な魂を持っている存在としてメリックは描かれています。似たようなアプローチの映画に『シザーハンズ』があります。私があの映画を今ひとつ好きになれない理由が少しわかりました。あの映画は怪奇映画としては全体のトーンが多分明るすぎるのです。本作の恐怖は表現だけでなく、そんな人間たちの醜悪さが大きな要因なのです。
 
 最後にメリックが死を選ぶシーンとなりますが、これほどに美しく哀しいシーンはありません。スペイン映画のクラシックに『汚れなき悪戯』という作品がありますが、この映画もそれに通じる高貴な印象を与えることに成功しています。ただただ胸に迫りました。本作のこの場面がスピリチュアルに感じるのには理由があります。劇中、とても重要なシークエンスで詩篇23篇が出てきます。彼は暗誦しているほど聖書を読み込んでいたことになっていますが、あの内容が象徴的です。また彼が工作しているのはマインツ大聖堂。こんなことからも彼は心から神に救いを求めていることがわかります。ですからここでの死は、彼が神の使徒として神の国に受け容れられているであろう、いうリンチの祈りがこめられているわけです。リンチ作品では人間の中身が入れ替わってしまったりう、外見はこうだけれど中身は違うなどというシチュエーションがしばしば出てきます。リンチにとっては肉体は魂の容れ物なのかもしれません。『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』は、あの大人気シリーズの劇場版としての評価は相当低いのですが、1人の少女の魂の救済についての物語としてみるとすんなりと理解できます。(以下あの作品のネタバレ 反転して読んでください)父親から性的虐待を受けているわけですから、そこを根っこにして彼女が精神的にすさんでいたことはわかります。あの映画のラストで天使が出てくるのはそういう理由だからです。そしてこのラストがもうひとつ心迫るのは、あのナレーションでしょう。メリックにとっての救済とは何であったのかがわかります。そして観客である私自身もジョン・メリックとともに救われたような気持ちになりました。

 4K修復された映像はデビッド・リンチとフレディ・フランシスとが作り出した漆黒の闇があります。きっと覗き込むのには勇気が必要ですし、それは単純で楽しいと鑑賞後に感じる世界ではありません。しかし一見怪奇映画のような表現でありながら崇高な魂と人間の生き方をみつめたこの物語は、きっとあなたの心の中に深い感銘を与えると思います。公開から40年。もしあなたが本作をまだみていないのであれば、ぜひ今回の再映でご覧いただきたいと思います。
(ユナイテッド・シネマ浦和 5スクリーンにて)

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2020年8月 1日 (土)

『アルプススタンドのはしの方』

☆☆☆ 城定監督、いぶし銀の安打。
Alpsjojo
 個人的にずっと応援してきた城定秀夫監督の新作となるこの一般作品は、青春映画の良作として、期待に違わぬ出来映えとなっていました。
 夏の全国高校野球大会での応援席で繰り広げられる高校生たちの人間模様を描いているのですが、十代という時代をどう生きるかという点では、『ブレックファストクラブ』だったり、『桐島、部活やめるってよ』などに連なる視点を持っています。だだ城定作品らしくすべてのキャラクターをあたたかく見守りながら、それぞれを生き生きと表現することで見応えのある展開になっています。

 と、城定作品でなければここで終わり。めでたしめでたし。

 ですが、これはあの城定秀夫監督作品。みている立場も、やっぱり「しょうがない」ではダメな気がして、ちょっとここで終わりにしたくない(汗)。城定作品を贔屓にする映画ファンの心のモヤモヤとして以下は聞いてください。

 本作が城定作品の最高傑作であるかと問われたら、私は「違う」と答えるでしょう。そしてそれは私だけではなく、今までの城定作品をご覧になっている方であれば、同様な答えになる人は少なからずいるような気がします。もちろん平塚球場が甲子園球場にどうやってもみえないとか、日本のサウンドデザインが海外作品とは圧倒的に質が違う(野球観戦をしている人であれば感じたと思いますが、このリアリティの無さは勿体なかったです)とか、作品の製作規模に関することは前向きな気持ちで「しょうがない」と諦めましょう(汗)。
 やはり大きなポイントはメディアとしての演劇と映画のフォーマットの違いだったと思います。
 ステージを映画にするのはなかなかの難題です。それはステージ中継と映画が別であるという点でもわかります。そして本作は結果的に過去の城定作品と比較すると、大きな魅力を2つ失っていたと考えます。ひとつは画で物語を語る点があまりにも欠けていることです。カットバックをせずにワンカットのグループショットにしたという点を「映画秘宝」のインタビューで語っていましたが、どうもその選択肢が効果的ではなかった気がしました。オープニングの演劇部員の安田の回想がとても効果的だった、という点でもわかります。もともと高校演劇の作品だった本作。私は演劇に興味もある人だったので、偶然にも私はもとになる舞台をEテレでのオンエアでみていましたが(筆者注:Eテレは全国高等学校演劇大会の模様を「青春舞台」として放送している)、ステージ版でも試合の様子は出てきません。しかし元のステージが巧いなと思ったのは場面転換ができない演劇の特性を逆手にとって観客の想像力が補うだけでなく、それが作り手のイメージ以上の物をイメージする相乗効果となっていること。つまり観客それぞれがイメージするのは試合だけでなく、登場人物と同じ「青春」という時間でもあったということです。つまりこの物語が演劇のためであったという何よりのポイントでした。その点で映画が選択したグループショットは彼らの関係性の表現としてはわかりやすかったけれど、それぞれのキャラに感情移入するための何かが足りなかった気がします。このあたりは大林宣彦作品の表現と比較するとすごく興味深い気がします。またそんな意味でも、もし一連の城定作品を支えた田宮健彦カメラマンが本作の撮影だったらどうなってたかな?という気持ちがあります。
 もうひとつはセリフの力に頼ってしまったこと。もっとまなざしや表情、仕草など俳優たちの肉体で表現してよかったのではないかと思うのです。とくにクライマックスのセリフの応酬は登場人物たちの独白めいた部分が強くて、映画というフォーマットでは必要なかった気がしました。耳をつんざくようなブラスバンドの演奏と大きな声援という環境音の中で彼らが汗を流して「がんばれ!」と叫ぶだけで充分だった気がするのです。
 そしてこうやって並べた演劇と映画の違いという点は、同じように成人向け作品と一般作品という表現の違いでもあったのかもしれません。それは製作規模の違いではない。今までの城定作品だって潤沢な予算や恵まれた環境ではなかったはずですが、例えば私の大好きな『僕だけの先生 ~らせんのゆがみ~』や『悲しき玩具 伸子先生の気まぐれ』で描かれた物語の方にも青春を感じてしまうのはなぜだろう?という問いなのです。今回、私が想起したのは原恵一監督のことでした。クレヨンしんちゃんの劇場版で傑作を手がけている原監督ですが、しんちゃんを外れてから手がけた作品には、それを上回ったという印象は私にはありません。製作時には制約となっていたしんちゃんというフォーマットが、結果的に原恵一監督の表現を輝かせていたのかも、という逆説的な結果です。(ちなみに柳下毅一郎ら一部批評家が一般的な評価よりも先回りして熱狂的に評価していた、という点でも城定監督と共通しています)
 逆に言うと城定監督の過去の作品はとにかく官能的であり、エモーショナルでした。それはどこからきたのかと言えば、やはり画と登場人物で物語を伝えるにあったと思います。つまり映画として魅力的だった、ということです。本作も充分に楽しめる作品だと思いますが、城定作品の凄さはこの程度ではないぞ!とも言いたくなるのです。そう、多分私の最大の不満は、この物語は城定監督でなくても描けたものではなかったか、という点なのかも知れません。もちろん本作の魅力は城定監督の演出力が大きいことをわかった上で、あえて述べていますが。

 ですから。本作は城定監督、いぶし銀の安打と呼びたいです。そして本作が城定秀夫という名前を知るきっかけになるのだとしたら本当に嬉しいです。でも本作だけで城定秀夫をジャッジしないで欲しいという気持ちもあります。もし城定作品を他にみたことがないという方は、ぜひいろいろとみてください。性的な表現が苦手な方もいらっしゃると思いますが、性を題材でとりあげるものでしか描けない物語もあり、映画として優れている点では太鼓判を押します。そして私のような城定作品ファンは、もちろんまた「次」も期待しましょう。

 最後にプロデューサーの久保様。いつか書こうと思っていましたが城定作品ファンとしては、本当に心から感謝しています。今まで秘宝のインタビューやネットでの発言などでしか私は存じませんが、本作をみていて、間違いなくこの作品は久保Pあっての映画だと思いました。あなたが送りバントや犠牲フライだけでなく応援団もやっているから、作品が完成しているのでしょう。ひょっとするとこの中にいるキャラクターたちも城定作品の現場でもあるのかな? 久保Pは厚木先生みたいなのかな?なんて邪推したりしました(笑)。いずれにせよ、原恵一監督にも茂木仁史というプロデューサーがいらしたからこそで、城定監督には久保P、ここまでのフィルモグラフィが連なったのは城定監督は本当に幸せなんだと思いました。これからも素晴らしい作品を期待しています。

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2020年7月11日 (土)

『日本沈没2020』

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☆☆☆ コロナ禍の世界で苦しんでいる私たちに寄り添ってくれる作品
 Netflixで公開された湯浅政明監督、待望の新作は、2020年現在の日本、いや世界が必要としている力作となっていました。物語は1つの家族からの物語が展開します。そこに様々な人々が関わります。さまざまな災いが訪れて、死も容赦なくやってきます。それはあまりに無慈悲であり、また唐突でもあります。しかし最後に残ったもの、それはやはり希望だったのです。
 先に断っておきますが、この作品は間違いなく賛否両論となるでしょう。『日本沈没2020』という題名から観客が期待するものが多種多様である上に、とことんミニマムに描いた作品世界や、一般的な日本アニメとは違うキャクターデザインや動きなどのビジュアルが、かなり個性的であることは間違いないからです。しかしそれでも私はこの作品を支持したいのです。
 否の意見を述べたい方の気持ちもわかるのです。人物を描くための時間的なバランス配分はあまりよいとは思えませんし、またエピソードとしての完成度はかなりばらつきがあります。何より災害シミュレーションとしてはディテールが雑すぎであることは私も認めます。あまりにも出来事が突飛な上に偶発的すぎると感じてしまうのは、構成上の問題で、やはり物語として説得力に欠けている面は否めません。また既視感のある部分や、ネイティブな発音となっていないのに英語連発というのはまるで原田眞人の作品みたいです(汗)。しかし本作の肝はリアリティでもないし、シミュレートすることでもない。湯浅監督がやりたかったことは、本作を意図的に寓話として描くことで、ミニマムでありながらも普遍性をもたせたかったのだと思います。聖書のさまざまなエピソードを想起させる部分が多いのは偶然ではないと思いますし、ロードムービーの変形版という見方もできるのです。
 喪失からの再生という点で言えば、私が真っ先に本作と近いイメージで思い出したのは「2009年6月13日からの三沢光晴」という書籍でした。この本は三沢光晴という男に突然永遠の別れを告げられた人たちの物語ですが、ここで取り上げられた人たちは当初はどう受けとめればよいのかわからない中、その忘れることができない重さと真摯に向き合おうとして、筆者はそれをそのままつかみとろうとしている本でした。だから私たち読者には新しい希望の芽生えのように感じました。本作もそうなのです。登場人物たちがもがきながら胸をはって前に進んでいる姿に「生きる」ことの素晴らしさを感じさせられたのです。
 最後のエピソードはいかにも湯浅監督らしいまとめ方で、監督の代表作『ピンポン THE ANIMATION』のような祝祭的なイメージで終わります。また本作を理解する上ではやはり湯浅監督のNetflix作品『DEVILMAN crybaby』が必要でしょう。あの世界と表裏一体になっています。『DEVILMAN crybaby』は絶望をつきつめて描写した先に、諦めに似た「達観」のようなものがありました。それは永井豪の原作からも感じられることでしたが、どことなく性悪説と世の中への憎悪がベースになっていたように感じます。本作も、その達観ぶりは共通しています。しかしとことんミニマムに描いたことで、それでも人間には生きる意味があり、人生には価値があるんだと我々に伝えているのです。
 万人の評価は得られないタイプだと思います。でもアニメーションならではでしか描けなかった「生きること」について描いたこの寓話的な作品は、それゆえうわべだけのもの    ではなく、私の今の心の奥底にまでストンと響きました。コロナ禍の世界で苦しんでいる私たちに寄り添ってくれる作品として、ぜひ皆さんにもみていただきたいです。

 

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2020年2月18日 (火)

『小さな学校』

☆☆ 村上監督にとっての『スパルタカス』
 村上監督作品では唯一未見だった本作。フィルモグラフィ上では2作目となる本作は、閉校が決まった在籍児童数6名という小規模な小学校を追いかけています。『流 ながれ』でも組んだ能勢広カメラマンとの共同作品。この後『無名碑 MONUMENT』となるわけですが、『無名碑 MONUMENT』からはご自身でカメラを回していらっしゃいます。以前「自分で回してみたくなった」というお話をされていたのですが、本作をみるとそれが理解できた気がしました。
 この映画は記録映画として優れてる面はありますが、完成度という点では他の作品と比較すると、うーん…となるところがありました。何というか、学校生活の中で一番面白い部分を掴み損ねている気がするのです。長期取材によって生まれた『流 ながれ』で描かれた圧倒的な時間軸の圧縮と比較すると、いかにも淡泊な上に、核となる存在がはっきりしなかったために、「学校とは何か?」というもっとも観客が興味をもつ部分が描ききれていなかったのではないでしょうか。
 『流 ながれ』もそうでしたが、本作も構図が実に端正です。わかりやすく正面を見据えて、奇をてらうことなく記録映画としてのセオリーをきちんと守っています。ところがこれは諸刃の剣で、映画的な興味でいくと変化が少ない分、全体の構成に起伏が少なかったり、先にこんなことが起きるのではないかと逆に予想しやすいという面があります(ちなみに『流 ながれ』はそれを長期撮影という別の強みがあることで、作品全体の時間軸を圧縮したことで見応えを生み出していました)。一方、村上監督自身が撮影された構図は、『東京干潟』のようにドキュメンタリーというよりは劇映画的な奥行きのあるフレーミングが多く、とてもドラマチックなのです。もちろん作為的になってしまうというデメリットはありますが、村上監督は自らと対象者の交流をもドキュメントにすることで、そこを逆手にとっています。本作での一輪車に乗っている子どもたちのシークエンスと、『東京干潟』でしじみのおじさんを自転車でずっと追跡するシークエンスとを比較すると、両者の資質の違いがくっきりと浮かんでくると思います。
 ラストの校歌のシーンはよかったですね。あそこは村上監督らしいと思いました。それもふまえると。きっと村上監督は編集をされていて、子どもたちや先生に話しかけたくなったのではないかと、感じたのです。なぜなら学校とは、人が集まり人が交流することで生み出される空間であること、そしてそこにいる人たちの存在によって化学変化が生まれ、大きく姿を変える場所だからであるからです。つまりここでは、はっきりともっと人にクローズアップするべきでした。例えば校長先生(村上監督の王道でいくならば、これな気がします)、例えば担任の先生、もっといえば児童は1人でもよかったかもしれません。もし『東京干潟』のように、校長先生と監督がやりとりしていたら、異色の学校物になっていた気がします。
 本作は村上監督にとっての『スパルタカス』(S・キューブリック)なのかもしれません。しかし村上監督のフィルモグラフィを俯瞰した場合、絶対に見逃せない作品です。ここでやりたかったことが『無名碑 MONUMENT』へとつながり、『無名碑 MONUMENT』での経験が、『東京干潟』『蟹の惑星』につながっています。機会があればぜひ。

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